
春の畑仕事のゆううつなことと言えば、種まきや植え付けのために草を刈る時に、冬眠中のカエルを鎌で傷つけたり、死なせてしまうことだ。
絶命したカエルの白い腹に赤い血、ピクピクと動く足を見るたびに頭が真っ白になり、「ああもう嫌だ、もういやだ」と全てほっぽりだして家に帰り、カーテンを全部閉めて布団をかぶりたいような心持ちになる。
殺してしまうことがあるのは、カエルだけではない。ミミズをやはり鎌でちぎってしまこともあるし、何より青虫やコガネムシの幼虫(通称:ネキリムシ)は故意に手で潰す。農薬を使わない自然農といえども、日々の殺戮の上に成り立っている。
しかしカエルは冬眠のために地中で眠っているのであるから、目覚めて地上に出てくれさえすれば、殺すことはないのだけれど…なんとか、なんとかして春の草刈りの前に目を覚ましてはくれないだろうか。”明日はどこそこの畝の草を刈るので注意”というような伝言を伝えられれば。
たとえば畝ごとに一匹ずつカエル班長を任命して、わたしがまずは電話をかける(全員にかけるのは大変なので)。そこから順々に連絡網を回してもらい(学生時代のように)、注意を促してもらうとか。
カエルが筋肉質な二本の後ろ足で立ち上がり、壁(壁?)の電話を取り、耳に(耳?)当てている姿を想像する。
畑にしゃがみ込みながらグズグズとそんなことを考えていると、「カエルは電話を持っていないですからねえ」と後ろから声がして振り返ってみると案の定タヌキだった。「それに冬眠中なのだから、もしも電話があったって留守電になっているんじゃないでしょうかねえ」
タヌキの言うことはいつでもその通りだ。畑仕事をしていると、ついおかしなことばかり考えてしまう。しかし認めるのも悔しいのでぐっと歯を食いしばり、返事はせずに仕事を続ける。
タヌキはまるまるとしたお腹をパンパンと太鼓のように叩きながら「はっはっはっはっ」と笑っている。その音が意外な乾いた鋭さを持っているので、運動会決行を知らせる早朝の号砲のように空に響いている。

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